【囚人番号666】

 原作:Yunomi 作:しいか 


‐研究録‐
 『パンドラ童話集』を象徴する物語の1つ。
 絵本に比べれば冗長で、小説に比べると不親切。
 合理的に過ぎるは時に非合理に見え、その逆もしかりな不思議。

 正気か狂気か、そんなものはアナタの心が決めればいい。


【物語】

 むかーしむかし、その世界でただ一人の女性がおりました。女性は、ある罪で裁判にかけられるところでした。その罪は、殺人。それも、一人や二人、百人や千人ではありません。なんと、世界の半分…自分以外の女性を全滅させたのです。

「これより、囚人番号666番の裁判を行う」

 現れたのは、唯一の女性となった女。両手も両足も縛られ、ほとんど動けないような状態で法廷に現れた女に、男たちの憎しみの視線が降り注ぎました。女はそれでも怯えた様子ひとつみせず、裁判を受けました。裁判は驚くほどあっさりと進み、あとは裁判官が判決を言い渡すだけ…ですが、裁判官は最後の言葉の前に深く息を吐くと、女に問いました。

「666番…どうしてあなたのような偉大な科学者が、このような罪を犯したのですか?」

 女は犯罪者である前、いくつもの発明を残した科学者でした。その中には、命を救うものだってありました。だから、裁判官は納得いかなかったのでしょう。さっさと殺せ、という聴衆の騒ぎを制し、女に発言を求めました。

「科学者の理由は、いつだって2つだけ。1つは興味があったから。そしてもう1つは、必要があったから」

 女の発言に、聴衆から野次が飛び交いました。裁判官は再びそれを黙らせると、続けて女に聞きました。

「では、どのような必要があったのですか?」

 しかし女はそれには答えず、沈黙を続けました。

「では質問を変えましょう…世界に女性を取り戻すことはできませんか?」

 裁判官の質問に、聴衆が静まり返りました。空気の音すら聞こえそうなほどに静まり返った法廷で、女は述べました。

「できる…けどやらない」
「今女性を復活させてくれるなら、全ての罪を帳消しにするといってもですか?」
「あなたが帳消しにできるのは、法に関する罪だけ。だから、あたしの罪はけして許されることはない」
「では…その罪とは何ですか?」

 裁判官の問いに答える前に、女は始めて表情を変えました。それは、悲しそうな微笑み。法廷にいた男たちの視線を集めてしまうほどの、柔らかく、でも悲しそうな微笑み。女はその表情のまま、大きくため息をつくと、

「あの人に、生きて帰るってウソをついたことよ」

 そういい残して、自分が殺した女たちと同じように服だけを残し、空気に溶けるように消えてしまいました。 
 こうして、この世界から、女の人はみーんないなくなってしまったのでした。

 おしまい。