【呪われ姫君】

 原作:Yunomi 作:しいか 


‐研究録‐
 『パンドラ童話集』を象徴する物語の1つ。
 絵本に比べれば冗長で、小説に比べると不親切。
 ある意味では始まりで、ある意味では通過点。

 悲劇か喜劇かロマンスかそれとも別か、そんなものはアナタの心が決めればいい。


【物語】

 むかーしむかし…ある大きな国でお姫様が産まれました。
 王様は12人の魔法使いを呼び、魔法使い達はそれぞれ祝福の言葉をお姫様に贈りました。

「賢い頭脳を」
「優しく豊かな心」
「健康で強靭な肉体」
「目を離せぬ美貌」
「芸術を紡ぐ両手」
「指導力と求心力」
「逆らいがたい声と言葉」
「永遠に等しい命」
「いずれ我らに負けぬ魔法の力」
「食べもの寝る場所着るものに困らぬ運命」
「誰も及びつかないヒラメキ」

 こうして11人の魔法使いが贈り物をし、一番若い魔法使いの番になりました。
 若い魔法使いは言いました。

「誰からも愛を捧げられる、そんな子になりますように!!」

 魔法使いの贈り物に、城中の人々が拍手を送りました。

 そして十年以上の月日が流れました。

 12人の魔法使いから贈り物を授かったお姫様は、贈られた言葉通りの女性に成長しておりました。言葉どおり大きくなったお姫様の元に、毎日誰かが結婚して欲しいとやってきました。
 王子に貴族に学者に勇者、商人芸人村人盗人…大勢の男が結婚させて欲しいと叫び続けました。
 その声を、お姫様はお城の地下室で聞いていました。
 着るものも、食べるものも、寝る場所もあります。ですが、ここには誰もきません。

 ただ1人、父親である、王様を除いて…

 お姫様は、王様の言うとおり、歌を歌い、絵を書き、詩を書きました。王様がいなくなるまで、王様の言うとおりのことをして過ごしました。

 そんなことが何日も何年も続き、お姫様は自分の頭を壁に叩きつけました。しかし何度頭を壁にぶつけても、お姫様の体には傷1つつきませんでした。

 一方、城の外には、いまだ大勢の男たちがいました。お姫様に会いたくてしかたなくない男たちは、ついに門を壊し無理矢理城へと入りました。
 男たちの誰かが、お姫様を見つけました。別の男もお姫様を見つけました。また別の男たちもお姫様を見つけました。男たちはお姫様を連れていこうと、争いはじめました。争いはどんどんと大きくなりました。

「やめて…やめてください!」

 お姫様の声を聞いた男たちは、ピタリと争いを止めました。しかし代わりに、誰のお嫁さんになるのかを選ぶように求めました。本当は誰も選びたくなかった お姫様でしたが、しかたなく一番近くに居た男をお婿さんに選びました。

 男は、小さな国の王子様でした。

 その日のうちに結婚式が行われ、お姫様は小さな国の女王様になりました。
 ですが…小さな国の隣の国の王子が、お姫様を奪うために戦争を始めました。
 小さな国は負け、お姫様は隣の国の女王様になりました。
 ですが、大きな国は もっと大きな国に負け、お姫様はもっと大きな国の女王様になりました。
 ですが、そのもっと大きな国は、もっと大きな国に負け、やがてお姫様は世界一大きな 国の女王様になりました。

 ですが、それでも終わりにはなりませんでした。

 世界一の国に忍び込んだ泥棒が、お姫様を盗んでいきました。
 泥棒を倒した勇者が、お姫様を連れていきました。
 勇者を騙した商人が、お姫様を連れていきました。
 商人を殺した村人が、お姫様を連れていきました。
 村人を飲みこんだ魔物が、お姫様を連れていきました。

 誰かが連れていけば、別の誰かが連れていき、別の誰かも違う誰かに奪われる…お姫様は1ヶ月として同じ所に留まることを許されず、世界を転々としました。

 そしてある日…

 お姫様は、その時のお婿さんが寝ている間に、深い森の中へと逃げていきました。
 深い深い森の中で、お姫様は1人で暮らし続けました。いくつものしかけや魔法を使って、誰も森の中に入って来れないようにしました。そして何十年も何百年も時間が流れ、外の世界でお姫様のことを知る者がいなくなった時…1人の魔法使いがやってきました。

 それは、むかーしむかし、お姫様が誰からも愛されるように祝福を送った魔法使い…言葉もなく驚いた様子で自分をみつめるお姫様に、魔法使いはいいました。

「君にお詫びをしたい…3つ。ボクに出きることなら、なんでも願いごとを叶えよう」

 成長した魔法使いは、昔よりも強い魔法使いになっていました。あの時できなかったお願いも、今なら叶えることができる…と。お姫様は願い事を考えると、静かに、でもはっきりといいました。

「あなたのかけたお祝いを消してください。死ぬまで私と一緒に暮らしてください。そして…」
「そして?」
「永遠に…私に愛されてください」

 こうして、お姫様と魔法使いは、死ぬまで森の中で暮らしました。
 永遠に等しい時間の中をずっと…ずっと…ずっと…ずっと…

 おしまい。