【主役になりたかった脇役】

 原作:Yunomi 作:しいか 


‐研究録‐
 『パンドラ童話集』を象徴する物語の1つ。
 絵本に比べれば冗長で、小説に比べると不親切。
 呼び方が違うだけで同一と思われる人物がシリーズに登場する。

 彼が脇役か主役か、そんなものはアナタの心が決めればいい。


【物語】


 むかーしむかし、1人の先生と、大勢の生徒がおりました。大勢の生徒は、先生をお母さんと慕いながら、色々なことを学んでおりました。ある者は医学を、またある者は芸術を、またある者は家政学を…先生の元、子供たちは得意なことを見つけ、誰にも負けないほどの能力を身に付けていきました。

 そんな中、落ちこぼれた少年がおりました。少年は、物語に出てくるような主役に憧れていました。少年は主役になるため、色々なことに興味を示し、いろいろなことに挑戦しましたが、何をやっても一番にはなれませんでした。

 優秀な生徒たちは、少年のことを『主役になりたい脇役』と笑いました。少年を相手にせず、少年を助けず、ただ冷たい目を向け悪口を言うだけ…ですが、少年にも味方がおりました。
 1人は、先生。先生は少年に優しく語り、成長を促し、見守り続けました。
 もう1人は、とても優秀な少女。少女は厳しいながらも、少年の質問や間違いに、きちんと向き合ってくれました。

 ですが…先生と少女が味方でも、少年は脇役のままでした。他の子供が偉大な発見や発明をし、褒められるような偉業を成しても、少年は脇役のままでした。それでも少年は、諦めることだけはしませんでした。

 そんな日が何年も続き、少年は青年に成長しました。そしてある日、青年の中で、何かが芽生えました。

「そうか…全ては繋がっているのか」

 青年の中で、バラバラだったことが繋がり始めました。語学、科学、練金学、数学、医学、地学、社会学、心理学、美術、音楽、演劇、武道…それぞれの知識は別の何かに繋がり、繋がった何かがまた別の何かに繋がる。
それはまるでパズルのような感覚でした。他の生徒が綺麗だけど少ないピースで1枚の絵を作るのに対し、青年は多少汚くても、大きな1枚の絵を作るのに似た感覚。

 それから、青年は変わりました。全てが繋がる青年は、1を知れば10を知り、10を知れば100を想像しました。

 先生は、他の子供にも見せたことがないような、1番の笑顔で、青年を祝福してくれました。
 成長した少女も、相変わらず厳しいことを言いながら、柔らかい視線を向けてくれました。

 しかし、大勢の子供たちは、相変わらず青年をバカにしていました。実際、青年はその時だって、何をやっても一番にはなれなかったのですから無理もないでしょう。しかし、それだけではないことを、子供たちは徐々に理解していきました。優秀なはずの生徒たちが、何をやっても一番になれないはずの青年に恐れを抱くようになりました。

 青年は、ある1つのことで負けたとしても、他のほとんどが勝るようになっていました。先生と少女は、他の誰よりも青年の側にいるようになりました。多くの子供たちが限界を感じていく中、どこまでも成長を続けていくようになりました。

 青年はやがて成長し、男性になりました。それでも、やっぱり一番にはなれませんでした。生徒は男性に冷たく当たりました。それでも、先生と少女は男性のそばにいたいと思い続けました。

 男性はいつまでも成長し、世界にとって重要な役割を持つほどの人物…そう、主役の1人へとなりました。

「主役とは与えられるものではない…自らなるもの、か」

 主役になりたかった脇役は、こうして望む形では何にしろ、自ら主役の場を掴み取ったのでした。

 おしまい。