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【屋根裏部屋の舞台女優】
原作:Yunomi 作:しいか
‐研究録‐
『パンドラ童話集』を象徴する物語の1つ。
絵本に比べれば冗長で、小説に比べると不親切。
『屋根裏と少女』が出てくるお話は童話集の中にいくつかある。
ウソかホントか、そんなものはアナタの心が決めればいい。
‐補足‐
現在のバージョンは、初演時のものです
【物語】
むかしむかし、作・演出の父と、舞台女優の母…そして、父の才能と母の美しさを持って生まれた少女がおりました。少女を知る誰もが、世界でも有数の舞台女優になるだろうと思っていました。
ですがある日、母は少女を屋根裏部屋に押しこめてしまいました。そして父も、少女を屋根裏部屋に閉じ込めたままにしてしまいました。
少女がどれだけ叩いても固い扉は壊れず、ただ手が痛み、赤くなるだけ。たまにやってくる母にお願いしても、悪口を言われるだけ。毎日のようにやってくる父にお願いしても、ヌイグルミや絵本をプレゼントされるだけ…
そんな毎日が続き、少女は外に出ることを諦めてしまいました。外に出ることをやめた少女は、有り余る時間を、壁に耳をつけることに使いました。壁に耳をつけると、見えない外の世界の音が聞こえてきました。おばさんおじさん少年少女、犬にネズミに風の音。人も動物も自然も、見えないけれど確かにある世界に、少女は耳を傾け続けました。
「もっと…もっと、知りたいな」
やがて少女は、壁に耳をあてなくても、外の音が聞こえるようになりました。ずっと遠くの音も聞こえるようになりました。小さな音も聞こえるようになりました。
しかし…やがて外の世界の音にも飽きました。
飽きた少女は、ヌイグルミや人形と一緒に、お芝居を始めました。絵本を読んだり、外の世界の音を演じたり、自分でお話を作ったり…少女は、観客のいない屋根裏部屋で、いくつものお話を演じました。自分で自分のお客になり、自分で自分に拍手を贈り、自分で自分を批評し、自分で自分に全てのことをして…少女の舞台は、日を追うごとに洗練されていきました。そして少女は、ある日思いつきました。
「私のお話を外の世界でやったら、どうなるかしら?」
我慢できなくなった少女は、少ない自分の持ち物を上手に使いながら、準備を整えました。
そしてある夜、冷たい目をした母がやってくると、ありったけの声で叫びました。
「助けて、助けてパパ!!」
父の階段を駆け登る音が聞こえてくる中、少女は自分で用意した木彫りのナイフを1つ、床の上に放り投げました。そして怪訝な顔をする母ににっこりと微笑み、
「物語のはじまりー、はじまりー」
もう1つ用意していたナイフで自分を刺し、そのナイフも床に放り投げました。
父が屋根裏部屋へやってきました。父は、苦痛に歪む少女の顔と赤く染まっていく服、そして床に転がるナイフを見て、怒鳴り声を上げました。その声に怯えた母が、無意識に転がっているナイフを掴みました。そして…そして…そして…
そしてその夜、屋根裏部屋に、少女が思い描いた通りのお話が上演されました。
「やっぱり…現実もお芝居と同じなんだね」
少女は呟くと、お気に入りのヌイグルミを片手に、もう鍵を閉める人のいなくなった屋根裏部屋から出て行きました。外には、音に聞いていただけの世界が、くっきりと広がっていました。
「ここが新しい舞台だね…大丈夫。次はもっと楽しいお話にするから、ね?」
少女は微笑むと、『はじまりーはじまりー』といいながら、どこかに消えていきました。
おしまい。