【7人の勇者伝説】

 原作:Yunomi 作:しいか 


‐研究録‐
 『パンドラ童話集』を象徴する物語の1つ。
 絵本に比べれば冗長で、小説に比べると不親切。
 勇者の話はたくさんあるけど、同じ名前でも同じ勇者とは限らない。

 魔女と人間どっちが酷いかなんて、そんなものはアナタの心が決めればいい。


【物語】


 むかーしむかし、あるところに壊れかけた世界がありました。
 その世界で、大きな戦争が起きました。戦争は多くの命とあらゆるものを破壊してしまいました。
 このままでは、誰も助からない…そのことに気がついた人間は、長い争いに幕を下ろし、共に生きていく術を探しだしました。しかし、その時にはもう、自分たちだけではどうにもならないほど、世界は壊れていました。

 途方に暮れた人々は、神様にお祈りを捧げました。しかしどれだけお祈りを捧げても、命を捧げても、時間を捧げても、天にいるはずの神様は、何一つ人間たちに力を貸してはくれませんでした。
 やがて、人々は神様に頼ることをやめました。その代わり、別のものにすがりました。神ではない、人でもないそれ…それは、伝説の魔女。踏み入れてはいけないと言われ続けてきた禁断の森に住む、伝説の魔女。

 偉い人間たちは会議を重ね、戦争で活躍した7人の勇者を呼び寄せ、森に向かうよう、命令しました。
 7人の勇者は、固い決意を胸に言いました。

「オレたちしか世界を救えるものはいない。必ず…魔女の元に辿り着くぞ」

 あるいはずば抜けた腕力を持ち、あるいは高い頭脳を持ち、またあるいは独自の特技を持った彼らは、禁断の森へと足を踏み入れました。森の中は、無数の罠と、見たこともない魔物で溢れていました。例えば抜け出せない沼で溺れ、例えば鋭いキバで心臓を抉られ、7人の勇者はその数を減らしながら、それでも懸命に森の奥へと進んで生きました。

「オレが死んでもいい。だが、必ず誰かが、森の奥へ辿り着くんだ」

 森の向こうにある世界のため、勇者たちの冒険は続きました。しかし…勇者たちが森に消えてから、数ヶ月が経った時のことでした。禁断の森の外に、全部で7人の人間が集まり、いいました。

「オレたちしかこの世界を救えるものはいない。必ず…魔女の元に辿り着くぞ」

 あるいはずば抜けた脚力を持ち、あるいは膨大な知識を持ち、またあるいは独自の発明品を持った彼らは、禁断の森へと足を踏み入れました。森の中は、無数の罠と、見たこともない魔物で溢れていました。例えば複雑な地形に迷い、例えば毒のキバに侵され、7人の勇者はその数を減らしながら、それでも懸命に森の奥へと進んで生きました。

「オレが死んでもいい。だが、必ず誰かが、森の奥へ辿り着くんだ」

 森のむこうにある世界のため、勇者たちの冒険は続きました。しかし…勇者たちが森に消えてから、数ヶ月が経った時のことでした。禁断の森の外に、全部で7人の人間が集まり、いいました。

「オレたちしかこの世界を救えるものはいない。必ず…魔女の元に辿り着くぞ」

 しかし、その7人も森に消えてから数ヶ月が経つと、新たな7人が森の前に集まり、いいました。

「オレたちしかこの世界を救えるものはいない。必ず…魔女の元に辿り着くぞ」

 次々と次々と、森の前には7人の勇者が集まり、次々と次々と、森の中に消えていきました。

「王様、前回の7人も帰ってはきませんでした」
「わかった。では、新たな勇者たちをここに」

 こうして、7人の勇者は魔女が住むという森に入っていくのでした。こうして、誰かが最初の勇者になるまで、7人の勇者伝説は完成しないのでした。


 おしまい。